センス・オブ・ワンダー
副園長だより9月に入り、すっかり秋らしく過ごしやすい気候になって参りました。スーパーマーケットに食料品の買い物に出かけると、店先には秋の果物が並び始めました。まだまだ高値の物が多いですが、もう少しすると求めやすい秋の味覚も出てくることでしょう。楽しみですね。
私は平日の朝は毎日、園児さん用お迎えバスを運転しています。今年のコースは上田の町中を回って、最後に太郎山の麓である山口地域を運行しています。この地域には果樹農家さんが多く、主にリンゴを栽培されています。毎日同じ時刻にリンゴ果樹園沿いの道を運転していると、りんごの生育過程がよくわかり、その成長の姿に何とも言えない〝癒やし〟を感じています。春、一面に咲いたリンゴの白い花が小さな実を結び、それが日々少しずつ大きく育っていきます。そしてここ最近、みるみる赤みを帯びてきました。リンゴ園の真ん中を走り抜ける道にさしかかると、言葉を話し始めた2歳児のお子さんは「りんご! りんご!」と何度も連呼し、それと対照的にいつもは賑やかな大きなお子さん達は、刻々と姿を変えていくリンゴの不思議さに一瞬言葉を失い、静かに見入っています。
アメリカの作家であり海洋生物学者であったレイチェル・カーソンがその著作に残した『センス・オブ・ワンダー』という言葉があります。これは『神秘さや不思議さに目を見張る感性』という意味です。その作品には、こう書かれています。
「子どもたちの世界は、いつも生き生きとして新鮮で美しく、驚きと感激にみちあふれています。残念なことに、わたしたちの多くは大人になるまえに澄みきった洞察力や、美しいもの、畏敬すべきものへの直感力をにぶらせ、あるときはまったく失ってしまいます。もしもわたしが、すべての子どもの成長を見守る善良な妖精に話しかける力をもっているとしたら、世界中の子どもに、生涯消えることのない“センス・オブ・ワンダー = 〝神秘さや不思議さに目をみはる感性〟を授けてほしいと頼むでしょう。」
社会全体が感染症の猛威と対峙する中で、楽しみにしていた旅行の予定を変更したり、外出を控えて自宅に長く留まることで鬱々としてしまう時があるかもしれません。しかし人間社会が直面している不安の渦をよそに、自然界に目を向けると季節はいつものように夏から秋になり、自然は様々な恵みを与えてくれています。
『「知る」ことは「感じる」ことの半分も重要ではない。』とレイチェル・カーソンは言います。私たち大人も、自然の営みに改めて出会い直し、子供のように素直な感性を開くとき、言葉にならない豊かな気付きと救いが心の中に芽生えてくるのかもしれません。気持ちのよい秋空の下、ぜひテレビを消して、身近な自然を感じに近所を散策してみてください。